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更新なかなかできそうにないので、賢い人たちを真似て、ここにLog投下してみまつ。
お題サイト「TV」様より
漲る想いの背景
1 言葉を奪われる虹
2 花散る水面
3 高く澄んだ淡い空
4 黄昏に染められた部屋
5 星が溶けゆく明け方
「1 言葉を奪われる虹」
1 言葉を奪われる虹(貞シンvs貞カヲ)
梅雨の空は朝からどんよりと重く、真夏に比べてマイナス30%は暗かった。
コントラストの曖昧な厚い雲は、等閑な雨の合間に時折激しく雨粒を落とす。
それは昔よりも一滴一滴がはるかに大粒だ。
それは温暖化のせい、らしい。確かに、古典で習うような「しとしと」といった擬音よりは、今は「ザァザァ」と表すほうが随分と近いだろう。
雨は嫌いじゃなかった。
確かに湿気も酷いし服は濡れるし靴は汚れるし、ふとした時に傘を置き忘れてしまったりして肩で息をつくこともあるけれど、雨音は余計な雑音をその帳の向こうに押しやってくれる。
そしてそれは殻のようなものでもある。何か嫌なことがあっても、ゆがんでうつぶせた顔を傘で隠せば誰に見咎められることもない。
まして、自分の誕生日は毎年、嫌も応もなく雨の季節の真っ只中に来る。(当たり前だ、誕生日は選べない)
雨が嫌いだと言葉にしてしまえば、きっとさらに気が滅入る。
これ以上、穴を深く掘り下げずとも、自分の立ち位置が決して空の高みにないことなど、何年も前に理解しているのだ。
普段で水面下、少しいいことがたまにあって、それでやっと地面すれすれ。
僕の位置なんてその程度で、それ以上の高さなんて未踏の秘境と同じだ。
上空はいつも晴れ。
何かのCMで言っていた言葉。
けれど僕はきっと、とてもそんな場所に立ち続けられない。
せいぜいが、そんな高みを下から見上げているくらいで。
渚とケンカした。
…正しくは、僕が一方的に怒った、だけれど。
あまりにも違う捉え方は、あまりにも違う考え方になって、あまりにも違うアクションとリアクションになる。
常識の枠の中で他人に咎められずに生きたい僕、ハナっから常識が備わってない無軌道っぷり炸裂の渚。
それで、お互いうまくいくはずなんてなかった。
なのに何故か渚は僕に構いたがる。僕に構われたがる。
カルガモの雛が親鳥についてまわるほどの熱心さでまとわりついてくる。
けど、僕にはあいつに何か刷り込んだ覚えなんてないぞ。
それどころか、怒鳴ったり無視したり、相当酷い扱いしかしてないはずで。
なんだってあいつは僕に構うんだ?
さっき僕が怒鳴りつけたときの、きょとんとした顔が思い出されて、傘の下で眉を寄せた。
なんで怒られてるかわからない、って顔。
渚はバカだ。これ以上ないくらいのバカだ。
なんで怒られてるのか、まだわからないのかよ。爪の先ほども学習能力ないんじゃないか?
わざわざ大通りの向こうに声かけるバカがいるかよ。
(ただでさえ通る声が、予想外の場所でいきなり降ってわいたら焦るだろ)
僕が返事しないからって、いちいち車道に飛び出すな。
(危ないし、こっちの心臓に悪いだろ)
ただでさえ目立つ奴に肩なんか掴まれたら、僕まで注目されるじゃないか。
(これ以上注目されてどうするんだよ)
雨が降ってるんだから、傘くらいさしたらどうなんだ。
(濡れてる髪の毛とか、肌の色を映す白いシャツとか)
その傘だって通りの向こうに放り出してきたせいで、女の子が嬉しそうに拾っちゃっただろ。
(なんだってそんなに隙だらけなんだよ、絶対に口実にして会いに来るぞ)
渚のやることなすこと、いちいち無性に腹が立つ。
僕は他人の行動に興味も関心もなかったのに、まるで何かのスイッチが入ってしまったみたいだった。
僕というイライラの回路についた八つ当たりのスイッチ。
あるいは、不条理な怒りの回路についた、暴発のスイッチ。
今回はその二つともだったかも。
濡れた手が無視して立ち去ろうとした僕の後ろから肩を掴む。
その冷たいしずく、裏腹に熱い指。
やめろよ、僕はちゃんと傘をさしてるのに濡れてしまう。
「さっきから呼んでるのにガン無視? ねぇ、いったい何怒ってるのさ、わけわかんないよ」
ぶち。
自分の血管の切れる音を、こめかみに聞いた気がした。
「お前があんまりバカだからだろ!!」
そう叫ぶと僕は渚を置き去りに走って逃げた。
雨の中をメチャクチャに走って、気がつくと高台の公園にいた。
地面にめり込んだ僕が、せめても高度をとれる場所。
雨に煙った町並みはやけに遠く見え、にじんだ空と曖昧な境界線を引く。
濡れた手すりに前のめりに寄りかかり、傘の下で唇を噛む。
誰かになんか寄りかかりたくない。
けれど誰の面倒もみれない。
僕はほんの小さな器だ。自分を支えるので手一杯で、余裕なんてひとかけらもないから周囲と距離を開ける。
なのに、ほんの些細なことでこんなふうに、自分自身でさえコントロールできないんだ。
こんな天気でも、雲の上はいつも晴れ。
そんなふうにありたいと思った。そんなふうな強さが憧れだった。
けれど、現実の僕の胸の中は土砂降りもいいところだった。
僕は動くことも忘れて、手すりに寄りかかったまま、ただひたすらにそれをつぶやく。
雨は嫌いじゃない、と。
「――やっぱりいた」
後ろから不意打ちでかかる声に、掴まれた肩の辺りがざわっとざわめく。
なんで来るんだ。ほっといてくれればいいのに。
まだ僕という回路にはビリビリと電流が流れてる。
八つ当たりか、暴発か、そんなのお互い一日で一度味わえば十分なんじゃないのかよ。
それに、なんでここだって判るんだよ。お前と一緒に来た覚えなんかないぞ。
偶然はちあわせたことが1回あっただけなのに。
「シンジ君ってさ、考えるばっかでいざって時には動けないひと?」
だってさ、ここじゃないかなって思ったら、いるんだもん。
無遠慮な物言いに思わずかっとなる。
なぜなら、それは図星だからだ。
叶わなかった願い事や、満たされなかった願望が、僕をそうした。
迷わないように、躓かないように、足元を確かめて後ろを振り返りながら。
けれど、それはいつの間にか身についてしまったもので、自分でもどうやってそういう回路に組みあがったのかさえ、もう判らない。
だから、たまにいる天真爛漫なタイプは天敵だ。理解できない。そして、その下に隠れる嫉妬に似たもの。
(僕だって、ただの甘やかされた子供でありたかった)
もう声にすらならない願望。
(僕だって、地下に潜るよりも地面の上を歩きたかった)
(かなうことなら、少し高いところに舞い上がってみたかった)
「ねぇ、いつまで傘さしてんの? もう雨やんでるよ」
かけられた言葉を受け止めるけれど、僕は顔を上げたりしない。
そんなこと知ってたよ、だって傘を鳴らす雨音は徐々に遠のいていってたから。
けれど、まだ安心できないだろ。梅雨時の雨はいつ降り出すかわかったもんじゃない。だったらこのままでいい。
僕は傘を殻にして、お前なんか外側でじたばたしてればいいんだ。
そう思った矢先、ひったくるように傘を奪われる。
渚がそんな荒い行動をするのは珍しく、驚いた僕はまたも自分をコントロールしきれずに、思わず渚の顔を見てしまった。
「…もしかしてさ、シンジ君が怒ってるのは昨日のキ」
「うるさいうるさいうるさい!!」
ほらみろ、梅雨時の空と同じで、こんなふうに絶対思い通りにならないんだ。
適度な距離を保ちたいのに、渚の全部が夏を予感させる熱く湿った重い風のようにまといつく。怒鳴ったせいでぜいぜいと鳴く喉を押さえると、渚は僕の剣幕に一瞬ぽかんとさせた顔をゆるりと笑みに変えた。
「…なんだ、シンジ君、僕のことけっこう意識してるんじゃん」
「ちょ、な、なんでそうなるんだよっ!?」
男は男を好きにならないんだよ!
それが世間一般の常識ってもんだろ!?
続けてそう怒鳴ろうとしたのに。
やっぱり気がついてなかったの?といわれ、虚を突かれた。
「だって、友達だと思えないっていうなら友達とは違う形になるしかないじゃん」
親子はそもそもなれるわけないし、兄弟だってきっと無理。
仲間って友達みたいなもんだからそれもやっぱりだめで、クラスメイトになるには年が違う。
先輩後輩は、同じ学校だとなし崩しになっちゃうもんだから興味ないし。
あとはぁ…
渚は思いつくままに「関係」を並べて、それら全部を却下していく。
「もう恋愛関係しかなくない?」
そういって首をかしげると、「それに、友達関係よりも恋愛関係のほうが色々面白そうだしさ、だからそうしようって思って」と、渚は僕に怒鳴られたわだかまりなどかけらも見せずに微笑んだ。
僕は唖然とすればよかったのか、いっそ笑い飛ばせばよかったのか。
あまりの突飛な三段論法――というか、すでに三階層ブチヌキ論法のが近くないか?――に、言葉が出ない。
…脳天気。天然のバカだ、こいつ。いや、真性のバカ、の方が近いかも。
きっとこいつの立ち位置は空の高みにあるに違いない。
でなきゃ、こんなに邪険に扱われながら何度も笑えるはずがない。
僕にはこんなふうに笑えない。
ああ、でも――
それはきっと力だ。何かを変える力、何かを動かす力。
あまりにも飛びぬけたものは、きっと同じ場所に留まることを許されないんじゃないか。
「あ、虹でてる」
ほら、と白い手がすらりと伸びて空を指す。半分だけ振り返った顔を太陽が照らして、濡れた銀色の髪の周りでしずくがはじけた。その水滴が光を弾いて、整った顔の周りを縁取って見せる。
やめろよ、眩しいじゃないか。
お前、どんだけ光ってみせたら気が済むんだよ。
ただでさえ整った容姿で、出るところに出れば世界中の注目だって容易く集められそうな癖に。
こんな世界の片隅で、そんなふうに笑い顔をばらまいて、無駄に光ってるって自覚ないわけ?
晴れがましい場所は慣れてない。慣れてないんだ。
誰かにこんなふうに笑いかけられることにだって。
まばゆい誰かに真正面から笑いかけられることなんてさらに。
思わず眼を細めた僕に、さっき虹を指したその白い手が伸べられる。
赤い眼は、まるで雲間から覗いた太陽の熱を吸い取ったように強い光を溜めていた。
頬を撫でられ、その虹彩に浮かぶ空の虹よりも鮮やかな遊色に、ひそかに息を呑む。
見惚れてるんだか立ち竦んでいるんだか判らない僕を眺めて、渚の口元が、くす、と笑う形になる。
(ここって笑うところかよ?)
つっこみたいけど、もう言葉を失くしていたから。
あえてもう一度探そうとも思えなかったし。
だって、くちびるは、別のことで忙しくなってたから。
雨と太陽が揃わなければ虹は出ないんだっけ。
そして虹は必ず太陽の反対側。
それならば、僕の足元の雨に洗われたアスファルトにも、きっと今、お前が照らした虹が出てる。
だって、今なんだかほんの少しだけ空の高みに近づいたような気がするんだ。
5センチくらい、地面から体が浮き上がった気がしてるんだ。
ただそれだけなのに、僕にとっては前人未到の領域だった。
(えんど)
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え、えーと、ツンデレvs天然って感じ?(聞いてどうする)
でもきっとこの勝負は天然の勝ち。
そして思ったことは。
「えー、1000文字って超少なっ!川柳みたいじゃん!」(大違い)
1000文字あっても状況説明すらきちんとできないことに気がつきました。
これでも「短く~」と呪文唱えながら書いたのに4500文字弱あるよ…。
短く粋にピリッとまとめる能力はヲレにはないよぉです…orz
ろくに錬れてないけど鮮度はいいので、とりあえず投げてみる。とりゃー。
(サイト収録時にはもちょっと直します…。)